イルム通信(No.12 / 2012年9月26日発行)

 

 

日本社会に「がつん!」のこの裁判

くびきから一つ一つ自由になるために

第15回・第16回口頭弁論に傍聴参加して

K.F.(看護師)

 

▼人生初めての裁判傍聴

 

実は、通名の強要で裁判をおこされた方が今までいなかったということが意外でした。通名を使うのが嫌だということができない、そんなにもこの日本社会の重圧は大きいのでしょうか。

7月11日の第15回の口頭弁論では、下請け建設会社従業員や関係者の方々の尋問でした。

建設会社の日雇い労働者の労働形態って、なんて不安定なんだろうと思わされました。この強力な力関係、この圧迫感に息苦しくなりました。

裁判の傍聴は私の人生で初めてということもあり、被告代理人の「品のなさ」みたいなのも気になりました。ああ、大変だなあ、次週の本人尋問はきついだろうなあと一人で気が重くなりました。

7月18日、第16回口頭弁論は、午後からの参加。しかも傍聴席は満席で、途中入室でした。ですので、稔万さんの本人尋問は少しだけ傍聴できました。

被告代理人の質問に答える稔万さんは、訴えた側なのに、被告のように、責められているように感じたのは私だけでしょうか? 被告の大手ゼネコンや日本国は、悪いことをしているとういう意識は、微塵も感じられませんでした。

その思いが一番強くなったのは、被告代理人が、ある質問をしたときでした。被告側の会社の社員が本人に問うこともなく、目の前で、あっという間にコンピューター上の名前を変更した、“そのときに替えたことを本人が嫌かどうか、どうやってわかるのか?”というものでした。

稔万さんが思わず、“替えること自体おかしいでしょう、なんで替えるんですか?”と言われたとき、私も全く同じことをつぶやいていました。

指紋までとってやっている本人確認なのに、そんなに簡単に名前を変更できるんでしょうか? これが運転免許証だったら、住民票だったら、銀行の通帳だったら。ちょっと考えたら、「おかしい」と思うでしょう。そんな「当たり前」のことが、ここでは、当たり前でなくなっているのです。

日雇い労働者の名前だから? 通名だから? 在日朝鮮人だから? 外国人の名前だから? AからBへ、いとも簡単に。誰が替えられるのでしょう、何様のつもりなんでしょう、どんな権利があるというのでしょう。このこと自体がおかしいことだとまったく思わない、気づかない。この理不尽さ、この無神経さは、いったい何でしょうか?

孫請けの建設会社社長は、在日韓国人2世ですが、被告としてではなく、稔万さんと同じく原告としてこちらにいてもいいんじゃないの?と思ったほど、辛そうに思えました。この人にすべての罪をきせることになるのではないか? そんなことも懸念しました。彼に、「名前を替えた」責任は問えないと思いました。

証人席での稔万さんの姿を見るといろいろ思いがわいてきて、涙が止まりませんでした。

 

結婚式では「民族服禁止! 本名禁止! 朝鮮人(韓国人)とわかる言動は禁止!」

 

この日、裁判所に行く前に、シオモニ(姑)から話がありました。私の連れ合いは、在日コリアン3(2.5?)世で、本名を使っています。出会ったときも本名でした。免許証、貯金通帳、年金手帳など証明書は、すべて本名にしています。書類上、本名を取り戻すのに、かなり時間がかかったそうです。

でも、シオモニは、通称名(日本名)でしか彼を呼びません。チェサの時、親戚の家に行っておじ・おば・いとこから本名(民族名)で呼ばれることはありません。本名で呼ぶのは私だけです。

この秋に彼の甥(妹の子ども)が結婚します。甥は、小学校のときに日本国籍を取得、戸籍名も日本式で、職業は公務員です。結婚相手は日本人です。一応、甥が在日コリアンで日本国籍を持っていると知っているそうです。当然、私たちは結婚式に出ることになります。

そこで、シオモニから、結婚式に出るときは、「民族服禁止! 本名禁止! 朝鮮人(韓国人)とわかる言動は禁止!」と言われました。

ご祝儀も通称名で書いて、名簿の名前は、「○○△△」、私は「○○圭子」だそうです(日本式に夫婦同姓だから)。妹さんからもお願いがあったようです。親戚に在日韓国人がいることを職場の人に知れてはいけないそうです。

シオモニからしたら、初めての孫の結婚式、息子は絶対に出ないといけません。連れ合いにも頼んだそうですが、私にもそうするように、懇願しました。連れ合いが土壇場で、本名を書くか、出席しないかもしれないから、私にくれぐれも釘をさしてと頼まれ、ご祝儀の袋を渡されました。

甥や妹さんに「迷惑」がかからないように、シオモニの夢を壊さないようにと。

「本名で生きていくなら、そんな世の中になってからにしなさい」と、連れ合いはシオモニに泣かれながら言われたそうです。

親愛の情を表す呼称が日本名! 迷惑をかける本名! 何かおかしくはありませんか?

 

「本名を使っているなら、反日と違うか?」

 

名前について、もう一つ思い出すことがあります。

私が、自分の両親に彼の事を話したとき、もちろん本名をいいましたが(そんなこと当たり前なんですが)、「在日韓国人で本名を使っているなら、反日と違うか?」と聞かれました。ぎくっとしました。これが一般的な日本人のメンタリティなんだと思いました。

自分の名前を言うことが当たり前にならない、自分の民族性を表現できない、こんなことが日常的にあることがおかしいと思わないほど、ゆがんでいる日本人のあり方、考え方。本当に、なぜなのか聞きたいです。本名って「踏み絵」なんでしょうか?

日本社会は、今でも、植民地支配における宗主国の精神構造―在日外国人に「踏み絵」を踏ませて、「日本を好きか嫌いか? 言うこときくかきかないか?」を問うているように思います。日本人が朝鮮人に対してひどいことをしてきた、ということを一番知っているのは、当事者の私たち日本人です。マジョリティ(支配者)がマイノリティ(被支配者)に向かって、「日本の言う事を聞くのか聞かないのか?」と問いつめるのです。

だから、この日本で生きていくのに、民族をあらわす本名で生活できない、隠さなくてはいけない、その上、折角取り戻した本名を家族の間でうばわれているという不条理。

今も植民地時代と同様、在日朝鮮人の民族性を奪おうとする大きな力は続いているのです。

「解放されたなんて思えない」と、ある在日1世のハラボヂ(おじいさん)が言われました。「今でも韓国も朝鮮も日本にがつんと言えないんだ」。だから解放されたとは思えないと。

日本社会に「がつん!」と言ったこの裁判は、本当の解放にむかうという意味があるのではないでしょうか?

また、私たち日本人もかつての宗主国民からの解放されるために、必ず勝たなければいけない裁判だと思います。

私たちが、お互いにそのくびきから一つ一つ自由になるために。(2012.9.20)

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7月18日、証人尋問報告集会を開きました

 

 7月11日・18日の2日間にわたる証人尋問が行われました。18日夕方、大阪弁護士会館で報告集会を持ち、30人をこえる参加がありました。

参加者それぞれの裁判に対する熱い思いを自分に引き付けて語っていただきました。代理人の空野佳弘・弘川欣絵両弁護士からは裁判の流れを解説いただきました。

 限られた時間だったために、じっくりお話を聞くことができず、みなさんにご迷惑をおかけしました。

【お し ら せ】

■第30回弁護団会議  3人の弁護団を囲んで、知恵を出し合いながら、楽しくやってます。参加希望の方はご連絡ください。

日時:10月4日(木)18:30~

場所:空野佳弘法律事務所

■2012年度第2回全朝教大阪(考える会)シンポジウム

さん「在日朝鮮人の本名(民族名)とは(仮題)」

 金さんのお話をもとに、子どもたちの教育にとって本名(民族名)がもつ意味、本名での就職の現状を、新しい法制度(出入国管理と外国人住民票)での状況とあわせて考えます。

日時:10月25日(木)18:30~

場所:アネックスパル法円坂3階3号室(森ノ宮と谷四の間)

参加費:800円

主催:全朝教大阪(考える会) http://kangaerukai.net/