イルム通信(No.13 / 2012年11月28日発行)

 

イルム(本名)裁判、いよいよ結審へ

  元請・大林組、国の責任は重大だ!!

松尾美恵子(釜ヶ崎医療連絡会議)

 

 

やり切れない思いをしっかりと証言

 

金さんは、10年以上も「」という本名を名乗って何の不都合もなく働いてきた。

ところが、2009年9月29日阪急百貨店2期工事の仕事に入ろうとしたときに、とつぜん、M建設の手配師から通名で行ってくれと求められ、ヘルメットの「きむ」というシールを剥がされ、「かねうみ」とテプラーで打ち出した通名(日本名)を貼り付けられた。

民族の誇りをこめて名乗ってきた「きむ」という名前を書いたシールが無造作に捨てられるのを見るに忍びず、金さんは拾ってそっとポケットにしまった。

金さんは、通名を強制され精神的苦痛を受けたとして損害賠償裁判を起こした。被告は、M建設(孫請)、建設会社Y(下請)、O組(元請)、そして国。

7月11日、および18日の2日間で、金さん本人を含め、金さんへの通名強制にかかわった手配師、担当者、責任者ら7人の証人尋問がすべて終わった。金さんは本名を名乗るにいたった思い、再び通名を使用せざるをえなかったやり切れない思いをしっかりと証言した。

 

就労制限のない特別永住者なのに

 

では、なぜ金さんは通名を強制されることになったのだろうか。

外国人の不法就労対策として、外国人(特別永住者を除く)を雇い入れるときには、就労資格を確認するために、外国人雇用状況届出書をハローワークに提出することが2007年から義務付けられるようになった。しかし、そもそも在日コリアン2世の金さんは特別永住者であり、この届出の対象外だった。

けれども、O組は、雇用したり、届出書を提出するのは下請の責任であり、O組に責任はないと言いながらも、監督責任として外国人を働かせる場合は、外国人登録証のコピーなどを下請から提出させ、O組で確認してから許可するルールをつくっていたという。このため、特別永住者であっても、O組がそれを確認し、実際に働かせるまでには3~4日要することもあるという。

日雇いを雇用するのに、登録してから3~4日後でないと働かせないというのは、不当な不利益を強いるものである。そればかりでなく、金さんは、2009年3月時点で、同じ阪急の1期工事のときに、O組にすでに外国人登録証のコピーを提出して、本名で働いていたのである。その資料はO組に残っていた。

大林組は、2期工事は別の現場として登録を新しくやり変えたというのだが、いったい何のためにそんな必要があったのか。O組では、特別永住者で

   

デザイン:佐野彰則

あっても外国人名(本名)を名乗れば、その日の日雇い仕事にはアブレる構造になっていた。

 

外国人雇用状況届出に「抜け道」

 

ところが、外国人雇用状況届出には、「抜け道」があった。日本名を名乗り、普通の注意力を払っていても日本人と区別できない人については届出をするまでもなく、働かせても差し支えないという説明が厚生労働省から出されていた(この説明は2011年4月時点では厚生労働省ホームページにも記載されていた)。

米原建設では、金さんが通名で登録すれば、当日から働けると判断して、通名使用を求めたという。それも、金さんと同じく在日コリアンである米原社長自身が、金さんに直接会って、通名で登録することの意思確認をしており、強制はなかったという嘘八百を並べ立てた。

金さんが米原社長に会うために、就労当日、本社へ行ったという事実はない。この嘘のために、被告側の証言に食い違いが出ている。

 

日本名を名乗るなら、大目に見てやろう…

 

日本名を名乗るなら、大目に見てやろう…こうした手法は、大日本帝国が植民地の人びとに強いた「創氏改名」以来、しばしば用いられてきた。

外国人にだけでなく、釜ヶ崎労働者に対しても、同じ手口が使われてきた。釜ヶ崎日雇労働者が労働力として必要であったあいだは、住居のない労働者にも、大目に見るかたちで住民票を与え、白手帳をとらせた。

しかし、もはやその労働力の有用性がなくなったとみるや、法運用を厳格化し、住民票を剥奪し、白手帳も取り上げていった。一時2万人を超えた白手帳保持者はすでに2千人を切るまで激減した。住民票とともに選挙権まで剥奪された人たちに、国は一顧だに与えない。

 

どこがいちばん利益を得るのか?

 

日本の高度成長を支えた釜ヶ崎日雇労働者の労働力が、外国人労働力にとってかわられたことは想像に難くない。外国人を外国人として認識しなければ、不法就労をどれだけ見逃していても企業の責任は問われない仕組みだ。

外国人労働力が不要になれば、どうするのか。釜ヶ崎労働者は、高齢化し労働力としての価値を失ったとき、生活保護という受け皿があった。しかし、外国人の場合、労働力が必要なあいだは必要なだけ使って、不要になれば不法就労の摘発を強化して、強制送還できる。

 こういう仕組みによってどこがいちばん利益を得るのか。引け目のある外国人労働者を安い賃金と劣悪な条件で使いたいだけ使うことができるゼネコンなど大企業ではないか。そして、国が大企業や経済産業体の利益のためには、国土国民を犠牲にすることすらためらわないことは、この間の大飯原発再稼動の経緯から見ても明らかである。

 利益を与えると見せかけて真綿で首を絞めるようなやり方で締め上げて、個人の人権や尊厳を取りあげていく日本式統治方法に飼い馴らされていてはいけない。ひとりひとりが自分の人権、自分の尊厳、自分の生活、自分の生命を守るために声を上げていかなければならない。

 O組や国の責任をどこまで追及できるか、金さんの裁判の行方に注目したい。

「働き人のいいぶん」7月24日号より転載

http://hatarakibito.at.webry.info/201207/article_4.html

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■第18回口頭弁論(結審!)

 最終弁論期日です! 現在、弁護団が、この裁判の中で繰り広げてきた主張の総まとめの「最終準備書面」が完成しました。ぜひ、傍聴にお集まりください! 夕方の集会も!

日時:11月28日(水)13:30~(どなたでも傍聴ください)

★開廷30分前に、裁判所1階南側入り口付近で傍聴抽選券配布。

場所:大阪地方裁判所808号民事法廷(大阪市北区西天満2-1-10)

        地下鉄・京阪「淀屋橋駅」「北浜駅」下車 

■報告集会

日時:11月28日(水)19:00~21:00

場所:ふるさとの家(大阪市西成区萩之茶屋3-1-10)06-6641-8273

   JR環状線「新今宮駅」/南海「萩之茶屋駅」/地下鉄「動物園前」下車   

    西成警察署斜め前、西成消防署出張所隣 

内容:弁護団報告(空野佳弘さん・奥田愼吾さん・弘川欣絵さん)

    「意見書を書いて」伊地知紀子さん(大阪市立大学)ほか

参加費:500円(終了後、交流会・飲食代別)

主催:金稔万さん本名(民族名)損害賠償裁判を支援する会