イルム通信(No.7 / 2012年1月26日発行)

 

ごく普通に本名が名乗れる社会を求めて

              川瀬 俊治(編集者)

 

ある歴史家のインタビューを読んでいて、発言の核心的な箇所を何度も読み返した。戦争責任に関する論及のところだ。

「国家指導者の責任は言うまでもないが、戦争遂行を黙認、同意した民衆の責任も追及する」という言辞である。

たしかにその歴史家の弁は正論だが、黙認することで地を這うようにしてやっと生き延びた民衆、ひたすら嵐が通り過ぎるのを待った人をどう考えればいいのか。民衆の責任論は単純に等式的にあてはまるものではない。と同時に、多様な層から論じなければ、浅薄な空中戦になってしまう。

金稔万(キムイムマン)さんの訴訟は、こうした民衆戦争責任論でみられたのと同様に、名前に関わる多様な層がわれわれの議論の過程で浮上してきた。父母、子どもとも一貫して本名を名乗ってきた人、日本国籍を取得して戸籍「氏名欄」に民族名を記しそれを名乗っている人、朝鮮名をひたすら隠して生きざるをえない人、無自覚に日本名を使う人等々。

そうした多様な朝鮮人に関わる名前の問題で、金稔万さんが訴えた裁判は大きく二つの意味を持っている。それは「ごく普通に本名が名乗れる社会」を招来するための課題をあぶりだすことでもあった。その視点は、日本名を名乗りひたすら朝鮮人であることを隠して生きざるをえない人に、自分のルーツが朝鮮であることに「蓋」をする人に、そして日本社会に同化埋没した人に注がれる。つまり地味だが日本社会で沈殿して表面化しない課題に切り込むことだ。日々の生活で否応なく直面するポスト植民地の課題に向き合った、いわば朝鮮人解放運動なのだ。

運動は人権の三次元といわれる、市民権・社会権・文化権の最も基礎に「名前」があることの再確認の作業でもある。またその営みは同じ空間に住む日本人に「市民権は何か?」「社会権は?」「文化権は?」と内実を問い、一つひとつの答えの具現を日本社会に求めている。

裁判を始めたとき金稔万さんはただ被告企業に対する許しがたい日本名強要を、そして国の不作為を問うたが、問題はその領域にとどまらなかった。

一方、裁判で明らかになったのは、名前を管理する側とされる側という二項目対立である。管理する側は情報を膨大に有し差配する。最新のコンピュータを駆使して管理するから、管理状態や過去の履歴が瞬時にはじき出される。

金稔万さんは自身が書きとめた、あるいは記憶の中から手繰り寄せて、情報を管理する側の過ちを糾す。この「しんどさ」は金稔万さんを本当に苦しめた。しかし、その苦闘が情報・管理社会で平然と、犯した「民族差別」を糾す闘いそのものなのだ。

なんとしてもこの裁判には負けるわけにはゆかないし、われわれは懸命に金稔万さんを支えねばならない。


下請け会社のなまえのはいったシールに本人自筆のサイン。

 

■次回口頭弁論の日程 傍聴に来てね!

 

裁判において、傍聴席をいつもいっぱいの人で埋めるということは裁判官の心証に大きな影響を与えます。

残念ながら、日本の裁判所は平日の日中の開廷ですので、なかなか大変です。が、そこは何とか万障お繰り合わせの上、裁判所にお運びください。終了後、毎回報告集会をおこない、その後、イムマンさんを囲んで、お昼ご飯を食べながら、有意義な時間を過ごしています。

 

【第13回口頭弁論】3月14日(木)11:30~

大阪地裁808号民事法廷(大阪市北区西天満2-1-10 地下鉄・京阪「淀屋橋駅」「北浜駅」下車)にて開廷されます。開廷15分前に傍聴券の抽選があります。30分ほど前までに(裁判所工事中のため)高等裁判所1階南側入口付近にお越しください。もちろん【入場無料】です。

 

【弁護団会議】空野佳弘弁護士事務所所にて

口頭弁論の前には弁護団を中心に、支援者が集まって弁護団会議をおこなっています。

裁判は、原告と弁護士だけではやりきれません。さまざまな形での支援なくしては国や大企業とは闘えません。裁判を進めるにはどうすればいいかを、あれこれ議論しながらやっています。参加希望者はご連絡ください。

 

イムマンさんが京都でお話をされます。参加可能な方はお運びください。

2011年度京都自由大学一般講座最終講義

「在日の記憶を継承する」

講 師:金稔万さん(ドキュメンタリー作家)

日 時:2月3日(金)19:00~21:00

場 所:京都自由大学(京都市下京区松原通油小路下る樋口町308京都社会文化センター内 醒泉小学校東向い)

受講料:一般500円/学生100円/会員無料 予約不要!

主 催:京都自由大学

 http://www.opencafekyoto.jp/

 

■大好評!【裁判支援グッズ販売中】

 

「イルムから」裁判をより多くの方に知ってもらうため、また、裁判費用の支援として、「イルムから」ロゴ入りTシャツとタオルを制作しました。

Tシャツの季節も終わりましたが、重ね着すれば年中着られます! 支援者のデザイナーさんがかっこいいロゴをデザインしてくれました。ハングルで、「イルム(名前)×サラム(人)」。白色のシャツには空、海のイメージの水色が、黒色のシャツとタオルには、日雇い労働現場のイメージを表す工具等がデザイン化されています。

すでに学習会などで販売しており、黒色Tシャツについては在庫切れのサイズがございます。

裁判の弁論期日にも持参していますので、傍聴の際にも購入していただけます。ぜひ傍聴の方もよろしくお願いします!

 

 

■ご注文方法■ メールで、irumkara@gmail.comへ、お申込商品名・サイズ・枚数・お名前・お届け先ご住所・メールアドレス・電話番号をお知らせください。こちらからご確認のメールをお送りします。

グッズの詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/irum/ を参照。

 

関連情報

■ドキュメンタリー『終わらない戦争』上映会 

被害者たちの、-そして私たちの戦争は終わらない

金東元(キムドンウォン)監督、2008年制作、60分、韓国語作品・日本語字幕版

 http://www.jca.apc.org/ianfu_ketsugi/63years_on/

お話:方清子(パンチョンヂャ)さん(「慰安婦」問題・関西ネットワーク共同代表)

日 時:1月28日(日)14:00~16:00

場 所:箕面市民活動センター多目的室 072-720-3386

(箕面市坊島4-5-20箕面マーケットパーク ヴィソラWEST1・2階) http://www.shimink.jp/sub/kotu.html 

[北大阪急行 千里中央]からシャトルバス(往復210円)   

    http://www.visola.net/map/bus.html    

[阪急箕面][JR茨木][阪急石橋]から路線バス。

主 催:みのお平和のまちをつくる会 090-6329-7126

後 援:(財)箕面市国際交流協会