イルム通信(No.8 / 2012年3月14日発行)

 

聞書き「民族学級で教えて」(上)

 

朴正恵さん(大阪市民族講師会共同代表)

 

 

本名(民族名)を名乗れない社会は同じ

 

今回の裁判で思い浮かんだのは、私が民族学級に関わり出した1970年代に闘われた君の件(日立製作所戸塚工場を受験、合格した朴さんが、通名で受験したことなどを「理由」に採用を取り消された事件。民事訴訟で1974年、朴さんが全面勝訴した)でした。本名(民族名)を名乗れない社会は同じじゃないかって。もちろん日本社会がそんな簡単に変わらないのはわかっているけどね、びっくりというよりも腹が立って腹が立って。

 

民族学級では原則本名

 

この問題を広げていくのは大事ですけど、それ以上にこれは絶対に勝たなアカン闘いですよ。その思いは民族講師としての経験から来ています。

 

小学校で子どもが民族学級に入ると、原則として本名を名乗ってもらいます、でも民族学級では本名なのに、クラスに戻ったら多くの子は通名になります。その割合は中学とか塾、高校にいったりすると上がり、就職になるともっと。民族学級の盛んな学校の卒業生だって中学までは本名――それも半分くらいかな――それが高校ではもう数名です。小学校の段階から高校卒業の時点になるにつれて、本名を通す子は少なくなっていきました。日本社会の厳しさを自分の体で感じているんです。昔の話じゃない。大阪市の最新の小中、特別支援学校での本名使用は26%ほど。いわゆる「新渡日」の子たちが増える中での数字ですよ。

 

通名による就職が多い現状

 

こないだ会った卒業生だって通名就職です。民族学級とかに来てチャンゴを叩いていた時はね、何ていうか、本当に朝鮮人に生まれてよかったみたいな空気をプンプン発散していたのにね、こと就職の話になるとね、「ソンセンニムには言いにくいけど……」なんてことになったりする。私が民族学級で実際に関わってきた子の中にも通名で就職した、せざるを得なかった子たちがいます。例えば民族学級で初めて本名を名乗ってね、仲間と出会って自分のルーツに触れて、最後は晴れやかにパジチョゴリなんか着て卒業した子がね、久しぶりに会うと通名で就職してたりするんです。「仕方ない」って。やっぱり社会に出るとそういう現実があるわけで、食べないと生きていけませんからね。親は一所懸命働いて卒業させてね、で「仕事ありませんねん」みたいなね。やっぱりそれはあんまりやなというふうに思ってね。

 

闘えば日本社会は変わる

 

そういう子どもたちに対して、やっぱり闘えば日本社会は変わるんだと何度でも語り続ける意味はあるんだと思う。もっと言えばその闘う一人に自分はならなアカンねんっていうことを伝えたい。私たちは、今を生きるために子どもたちに教えているんじゃなくて、この子たちの将来、未来を展望しながら子どもと出会ってるからね。そういう意味で金稔万さんの闘いはすごい意味があると思うんです。だから絶対に負けられない。今の子どもたち、その次の世代の子たちに諦めることを引き継がせたくはないんです。

 

大阪市での「本名を呼び名乗る運動」

 

今回の事件で腹が立つのは、この問題が他でもない在日多住地域の大阪で起きたことです。大阪でそんなことが許されるのかってね。他府県でも民族差別はありますよ、でも大阪では教員たちの団体「日本の学校に在籍する朝鮮人児童生徒の教育を考える会」(現在の「全朝教大阪(考える会)」)があって、「本名を呼び名乗る運動」がありました。それで40年間頑張ってきたし、大阪府では100人くらい朝鮮人――まあ通名使ってる人もいますけど――が採用されてる時代だし、とりわけ大阪市は明確に方針で「本名を呼び名乗る運動」を進めている。そんな大阪でこんな問題が起こる、許されてたまるかっていう思いがあります。

 

言い換えれば、私たちの数十年来の実践が踏みにじられたわけですよ。私が結婚して西成に来た1970年代はね、「朝鮮語やるんやったら英語やれ!」って親御さんに文句いわれたりね、「アンニョンハシムニカ」って子どもに教えたら、親から「なんでアンニョンハシムニカやねん、英語やったら分かるけどなっ!」って抗議されたり。「変な学校や」と吐き捨てられたり。中には子どもを越境させた親もいましたからね。同胞がこれですよ。

 

 

「本名では生活できひん、通用せえへん」

 

今回の裁判で前面に出ている名前は最たるものです。保護者会で話をするとね、「日本人が通名を使え言うたんやないかっ!」「何を今さら学校で民族名使えって勝手やないか!」「日本社会がどんな社会かわかってんのかっ!」って。それこそ保護者会の度に叱られてね。

 

「ソンセンニム、厳しいこと知ってるん? 社会出てみてな、そんないうてること夢やって。そら気持ちはわかるけど本名では生活できひん、通用せえへん」って。そんなことを繰り返してきた時代から今や、親が「子どもを韓国に留学させたい」っていう時代に代わってきたんですから。その変化を実感してきたから余計に腹が立つんですよ。余計にね。

 

 

差別を受けている者たち同士の間で差別が

 

長く勤めた小学校は旧同和地区にありました。朝鮮人もそうですけど、自分たちが差別されて底辺にみられてきた卑屈感があると、得てしてより自分より弱いものに目がいきますよね。だから部落の人の中には朝鮮人に対してすごい偏見持ってる人がいるし、朝鮮人も逆にそうだと思うんです。差別を受けている者たち同士の間で差別があるし、みんなが胸張って自分らしく生きなあかんのにそうならないし、なかなか自分の本名も言わない。でも何十年も活動する中で変わってきたと思うんです。

 

 

民族学級を通した実践があるから

 

私、学校近くの長屋に住んでるんですけど、ある日、家の前で朝鮮の歌が聞こえてきたことがあってびっくりしました。民族学級と学校全体で教えてる歌でした。で、ばーっと開けたらここ(校区)の子やねん。朝鮮人の子だけでなく日本人の子も一緒になって歌ってたんです。他にも歌あんのにね(笑)。ここでは歌える、歌えるというか歌ってもええねんという街にかわっていく。昔は民族学級の発表会でも来るのは朝鮮人の親だけ。それが今では日本人のお母さんが朝鮮人のお母さんと連れ立って来たりね、PTAでもキムチ漬けやったりね。民族学級を通した実践があるからだと自負しています。だから余計に腹が立つ。大阪の地でこういうことが起き、子どもたちが夢もってありのままで生きようとする時に、阻む日本社会というものは、何やねんというふうに思ってるんです。(聞き手:中村一成)

 


 

下請け会社のなまえのはいったシールに本人自筆のサイン。

 

 

 

■次回口頭弁論の日程 傍聴に来てね!

 

裁判において、傍聴席をいつもいっぱいの人で埋めるということは裁判官の心証に大きな影響を与えます。

 

残念ながら、日本の裁判所は平日の日中の開廷ですので、なかなか大変です。が、そこは何とか万障お繰り合わせの上、裁判所にお運びください。終了後、毎回報告集会をおこない、その後、イムマンさんを囲んで、お昼ご飯を食べながら、有意義な時間を過ごしています。

 

【第14回口頭弁論】

 

日程が決まりしだい、ブログ等でお知らせします。

 

大阪地裁808号民事法廷(大阪市北区西天満2-1-10 地下鉄・京阪「淀屋橋駅」「北浜駅」下車)にて開廷されます。もちろん【入場無料】です。

 

【弁護団会議】空野佳弘弁護士事務所所にて

 

参加希望者はご連絡ください。

 

■「金稔万さんの本名(民族名)損害賠償裁判を支える会」報告集会                                       

日 時:3月14日(水)19:00~21:00 

場 所:ふるさとの家(大阪市西成区萩之茶屋3-1-10)06-6641-8273 JR環状線「新今宮駅」/南海「萩之茶屋駅」/地下鉄「動物園前」下車。西成警察署斜め前、西成消防署出張所隣 

参加費:500円(交流会飲食代別)

主 催:さん本名(民族名)損害賠償裁判を支援する会