イルム裁判控訴審・第二回口頭弁論報告

イルム裁判控訴審・第二回口頭弁論報告

(ジャーナリスト・中村一成)

 

 イルム裁判の控訴審二回目の弁論が7月25日、大阪高等裁判所でありました。控訴審の「常識」を考えれば、この日の弁論終結も十分予想されましたが、何と金稔万さんの本人尋問が認められました。根拠も示さず金さんの証言をことごとく「たやすく信用することはできない」と決めつけた大阪地裁の判決破棄に向けた大きな「前進」だと思います。

 HPの事件概略などを読んで頂ければと思いますが、裁判上の大きな争点は、二期工事の2009年9月29日、金さんと孫請け会社の間でどのようなやり取りがあったかです。

 その日午後8時半、孫請け会社の今宮事務所(大阪市西成区)で従業員から通名使用を強制されたというのが金さんの一貫した主張です。一方、孫請け会社の社長は、「今日から働きたい」と請う金さんをその日午後5時に本社(大阪市港区)へ呼び出し、元請ゼネコンから要求されていた「外国人就業状況の届け出」提出の手間を省くため、通名で(日本人として)働く“抜け道”を提案。金さんもそれを了解した、としています。

 その上で、問題があれば元請に説明するため自分も現場にも行き、午後8時ごろの夜礼に出席したと断言し、「8時半に今宮事務所に行った」という金さんの証言を全否定していました。

 要するに孫請けの社長はそれ程に金さんの意向を尊重し、通名使用に慎重を期したと主張したい訳です。でも弁論でその時系列は崩れました。証人として出廷した孫請け会社の社員2人は社長同様、夜礼開始時刻を午後8時と明言しましたが、入退場記録で金さんの入構は午後9時36分と判明しました。不思議なことに3人が同じ間違いをした訳です。後に社長はなぜか夜礼の開始を午後9時と変え、従業員との齟齬すら生じています。

 密室での、しかも複数対一人という圧倒的不利な状況の中で、孫請け側の証言が事実ではないことが立証されました。それにも関わらず、大阪地裁はそれを無視し、何の根拠も示さないままに金さんの証言を「信用できない」と退け、会社側の主張を「事実」としました。だから原告側は再度、陳述の信用性を確認すべきと本人尋問を求めていました。

 この日は先ず、現場に行ったとする孫請け社長の主張を確認するため原告側がゼネコン側に求めていた社長の入構記録について、裁判所が文書提出命令を出すか否かが検討されました。ゼネコン側は記録が存在しないと主張。裁判はそれを認める形で請求を却下しました。続いて尋問の可否です。意見を求められた国、ゼネコン、下請け、孫請け被告4者の代理人いずれも「不要」と回答。裁判官たちは協議で一時退廷しました。文書提出命令は却下でしたから、私は「これで打ち切りか」と覚悟しましたが、再入廷した裁判官は、原告側時間30分ながらも尋問を認めました。実は原告側は前日、尋問の必要性を念押しする意見書を緊急提出しました。それが稀有な決定を後押ししたのは確かでしょう。

 繰り返しますがこれは快挙です。いさかか古いですが、2006年度の最高裁の統計によると、民事訴訟控訴審のうち弁論一回で終結したのは全体の6割弱。二回以内だと8割近くが終結し、流れ作業のように判決へ回されています。今回決定した証人調べに至っては全体の5%弱しか実現していません。偏見丸出しで金さんを「嘘つき」呼ばわりした劣悪な地裁判決を考えれば、再度尋問を行うのは当然ですが、当たり前が通用しないのが裁判です。逆にいえば裁判所の「常識」に照らしてもあの没論理の判決には首をかしげざるを得なかったということかもしれません。次回は9月24日午前11時です。